2018年 | プレスリリース?研究成果
銅酸化物におけるスピン系の超高速ダイナミクスを検出 ~高温超伝導など強相関電子系の解明に期待~
発表のポイント
- 高温超伝导体の母物质である铜酸化物において、光励起による电荷キャリアの生成に伴って生じるスピン系の超高速ダイナミクスはこれまで直接観测されていなかった。
- 时间幅7フェムト秒のパルスレーザーを用いたポンプ-プローブ分光法を适用することによって、磁気ポーラロンの形成过程、および、スピン系のダイナミクスに関係した光励起状态间の量子干渉を実时间観测することに世界で初めて成功した。
- 今后、情报科学に基づく新しい理论计算を用いて结果を解析することにより、电荷とスピンの相互作用に起因する强相関电子系の物理现象の解明が期待される。
発表概要
二次元铜酸化物における高温超伝导の机构や复雑な电子状态を理解するには、母物质である二次元モット絶縁体(注1)に导入された电荷キャリアの性质を明らかにする必要があります。二次元モット絶縁体中の电荷キャリアは、反强磁性的に配列した周囲のスピン系(注2)と强く相互作用すると考えられており、电荷キャリアが磁気ポーラロン(注3)を形成することや、モットギャップ迁移(注4)に対応する吸収ピークの高エネルギー侧に2マグノン励起(注5)によるサイドバンドが现れることが理论的に指摘されています。しかし、このような电荷とスピンの相互作用によって生じると予想されるスピン系の动的挙动(ダイナミクス)は、これまで直接観测されていませんでした。
東京大学大学院新領域創成科学研究科の宮本辰也助教、岡本博教授(兼産業技術総合研究所先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ有機デバイス分光チーム ラボチーム長)、東北大学大学院理学研究科の石原純夫教授らのグループは、京都大学、産業技術総合研究所の研究グループと協力して、時間幅7フェムト秒(fs)(1 fs = 10-15 秒)のレーザーパルスを用いたポンプ-プローブ分光法(注6)を典型的な二次元モット絶縁体である铜酸化物狈诲2CuO4に適用し、電荷キャリアの生成によって生じるスピン系のダイナミクスを世界で初めて検出しました。結果を解析することにより、電荷キャリアが約18 fsで磁気ポーラロンを形成することが明らかとなりました。また、2マグノン励起に関係した光励起状態間の量子干渉(注7)を観測することに成功しました。これは、2マグノン励起を伴うサイドバンドが存在する明確な証拠となります。
本研究で新しく得られた电荷とスピンの相互作用の情报を、今后の理论计算の基础情报として用いることで、二次元モット絶縁体の高温超伝导をはじめとする强相関电子系の物理の解明へとつながることが期待されます。
本研究成果は2018年9月26日付けで、英国科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載される予定です。
用语解説
(注1)二次元モット絶縁体
価电子帯が半分あるいは部分的にしか満たされていない结晶は、バンド理论からは金属となる。しかし、电子间のクーロン反発力が强いと、电子がお互いを避けるように各サイト(原子や分子)に局在し絶縁体となる。このとき、価电子帯は二つのバンドに分裂し(エネルギーの高い方からそれぞれ、上部ハバードバンド、下部ハバードバンドという)、エネルギーギャップが生じる。このような絶縁体は、モット絶縁体と呼ばれる。本研究では、二次元正方格子上の各原子の轨道に一つずつ电子が存在する二次元モット絶縁体を対象とした。
(注2)反强磁性的に配列した周囲のスピン系
二次元正方格子からなる二次元モット絶縁体では、各原子に局在した电子のスピンの向きは、隣り合う电子のスピンの向きと互いに逆向きになるよう配列する。これは、各电子が少しでも隣りの原子に移りやすくなる方がエネルギー的に安定化することによる。このようなスピン配列は、反强磁性スピン配列と呼ばれる(図1)。
(注3)磁気ポーラロン
一般的には、电荷キャリアが周りのスピン配列を変化させることによりエネルギー的に安定化した状态を意味する。二次元モット絶縁体に电荷キャリアが导入された场合は、反强磁性スピン配列を弱めることによってエネルギー的に安定化するが、ここではこの电荷キャリアの状态を磁気ポーラロンと呼ぶ(図2(产))。
(注4)モットギャップ迁移
モット絶縁体における最低电子励起状态である、下部ハバードバンドから上部ハバードバンドへの迁移。本研究で対象とした狈诲2CuO4においては、厳密には下部ハバードバンドと上部ハバードバンドの间のエネルギーギャップ内に酸素の2辫轨道からなるバンドが存在するため、そこから铜の3诲轨道からなる上部ハバードバンドへの电荷移动迁移が光学ギャップに対応するが、ここでは简単にモットギャップ迁移と呼んでいる。
(注5)2マグノン励起
マグノンとは、スピン波を量子化した準粒子である。通常の光励起ではスピン反転は生じないため、一个のマグノンのみを生成させることはできない。符号が逆で同じ大きさの波数(±办)を持ったマグノンが二个同时に生成するとスピン反転が生じないため、光による励起が可能となる。二次元铜酸化物では、ラマン散乱スペクトル上に2マグノン励起による幅広いピーク构造が现れることが知られている。
(注6)ポンプ-プローブ分光法 強いレーザーパルス(ポンプ光)を試料に照射したときに生じる物質の状態変化を、もう一つの弱いレーザーパルス(プローブ光)の反射率や吸収率の変化を通して測定する手法。ポンプ光とプローブ光のそれぞれが試料に到達するまでの時間の差を変化させることで、状態変化の時間発展を測定することができる。時間分解能は、レーザーパルスの時間幅で決まるため、高い時間分解能の測定を行うには短い時間幅のレーザーパルスを用いる必要がある。
(注7)光励起状态间の量子干渉
光照射によって生成する励起状态として、电子(ダブロン)と正孔(ホロン)とエネルギー?ωOSCを持つ2マグノン励起状态が合わさった状态を考える。ダブロン-ホロン対の数がN、2マグノンの量子数がnの状态を、触N, n? で表すものとする(図3(d))。時間幅が狭いポンプ光は周波数領域で広がっているため、多くの励起状態(例えば|1, 0?と|1, n?)が同時に励起されることになる。その状態で、同様に周波数領域で広がっているプローブ光を照射すると、例えば、同じ終状態を持つ |1,0?→触2,n?の遷移と |1,n?→触2,n?の迁移が同时に生じることになり、二つの迁移が量子力学的に干渉する。その结果、触1,n?のエネルギーに合わせたプローブ光の反射率変化に、これらの二つの迁移のエネルギー差である?ωOSCのコヒーレント振动が现れることになる。
(図1)铜酸化物狈诲2CuO4の结晶构造の模式図。铜の3诲轨道と酸素の2辫轨道が混成して二次元电子系を形成する。铜の3诲バンドが电子间の强いクーロン反発力によって分裂し、二次元モット絶縁体となっている。
(図2)(a)反射率変化の時間発展(青丸)。励起光子密度は1銅イオンあたり0.003光子である。水色実線は磁気ポーラロンの形成の時間スケールを求めるために利用したフィッティング曲線。遅延時間0フェムト秒を中心に描かれている黄色の影の部分は測定系の装置関数に対応するポンプ光とプローブ光の相互相関関数。 (b)磁気ポーラロン形成の模式図。
(図3)(a)様々なプローブエネルギーにおける反射率変化の時間発展。(b) プローブエネルギーに対するコヒーレント振動のエネルギー(○)。赤実線はNd2CuO4の光学伝導度スペクトル。(c) 2マグノンサイドバンドの模式図。(d)光励起状態間の量子干渉の概念図。
问い合わせ先
【研究内容に関すること】
东北大学大学院理学研究科物理学専攻
教授 石原 纯夫(いしはら すみお)
TEL:022-795-6436
FAX:022-795-6436
E-MAIL: ishihara*cmpt.phys.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
【报道に関すること】
东北大学大学院理学研究科?理学部 広报?アウトリーチ支援室
TEL:022-795-6708, 022-795-5572 FAX:022-795-5831
E-MAIL: sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)